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大往生

醗酵バターは、焼き上がったお菓子を食べるときよりも
オーブンの中できつね色になりながらじわじわ膨らんでゆく、
まさに今が一番よい香りを漂わせているのだと思う。
深夜2時40分。
紅玉りんごのパイがショワショワと微かな音をたてている。
秋が深まる11月になると、無性に林檎のパイを焼きたくなる。
酸味が美味しい紅玉りんごをグラニュー糖とレモン汁で煮て、
仕上げに数種類のスパイスを振る。
キッチンには甘酸っぱくてキリッとした香りが満ちる。
わたしは酸味が強めなほうが好きなので、レモン汁はやや多めに。

あぁ、酸っぱい!

熱いうちに味見して、そう感じるくらいの酸っぱさが、
冷めて切り分ける頃にはちょうどよく馴染んでいる。

酸っぱい……
酸っぱい……

またせんちゃんのことを思い出してしまった。
せんちゃんは酸っぱいものが好きだった。
「山葡萄原液」という、山葡萄をそのまま搾ったようなジュースが好きで、
よくせんちゃんの自宅に送った。
山形県にあるそのジュース会社からは、せんちゃんが死んで何年も経った今でも、
お中元やお歳暮シーズンの御用聞きや、
都内のデパートの催事に出店するときにはDMが届く。
きっともう、わたしが山葡萄原液を注文することはないだろう。
デパートの地下で試飲販売をしていても、売り場に近づくことを躊躇ってしまう。
「俺、酸っぱいの好きなんだよ」
と言って、にこにこしながら葡萄液を飲んでいた。
いつの記憶だろう。
いつも突然あらわれるせんちゃんの姿は、笑っていることが多い。
不機嫌な顔だってたくさん見てきたのに、
どうしてか、口角をきれいに上げてにぃーっと笑う、
あの道化のような子どもっぽい笑顔が浮かぶのだ。

最近、緊美研に参加したことのある女性と話す機会があった。
彼女は、別の現場で濡木痴夢男と知り合い、
縄に興味を持って遊びにきたのだった。
例会で何度か縛られ、緊美研以外の場所でも濡木痴夢男の縄を受けていたらしい。
どんな関係だったのかは知らないし、特に興味もない。
だが、話が濡木痴夢男の死に及んだとき、
彼女は煙草をふかしながら言った。
「八十過ぎてたんでしょ? 大往生よね」

大往生という言葉を聞いて、何かが引っかかった。
「でもね、老衰じゃなかったんだよ」
というわたしに、
「だってもう八十過ぎれば充分じゃない。大往生ですよ」

ああ、この人は、単に長生きした人の死を「大往生」と思ってるんだな。
と、悲しくなった。
どんなに長く生きた人でも、その人の死を悲しむ人はいる。
その人の死を辛く感じる人もいる。
「充分長生きしたから、もう死んで当たりまえ」
そんな風に言われたような気がして、
遺族でもないのに、わたしは少なからず傷ついた。
何が悲しかったのかといえば、
せんちゃんには
「大往生でした」
と言いっていい遺族がいるのかいないのか。
思い出してくれる人は、悲しんでくれる人はいるのだろうか。
と、死んだあとまで勝手に心配している自分が滑稽だからかもしれない。

わたし自身は、自分が死んだら、その身体だけでなく、
わたしの持ち物からなにもかも、物理的なモノだけでなく、
人の記憶からもすっぱり消滅したいと思っている。
それが理想。
それがわたしの大往生。
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[ 2017/12/02 03:02 ] 濡木痴夢男 | TB(-) | CM(-)
プロフィール
春原 悠理 Youri Sunohara Facebook
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濡木痴夢男の緊縛美研究会の主宰です。
好きなもの:ねこ、チョコレート、雑多な読書、映画鑑賞

便利なものは苦手です。
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